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  • 2025/10/14 (火)
  •  夏の暑さが和らがないまま「読書の秋」を迎える。先月、長崎県の軍艦島に上陸したのを機に購入した岩崎健典さんの手記「地獄の底は頭の上」を手に取った▼高島炭鉱で6年間、炭鉱作業員として働いた体験をつづったこの本は、漁師が海の底を例える「地獄」よりも深い炭鉱の現場の過酷さを物語っている▼本との出合いは、時に場所や人を通じて訪れる。人吉市九日町の肥後銀行一階ホールに10月までの期間限定で開設された「ひとはこ図書館」に、自分の本棚を持つオーナーたちが、おすすめ本を紹介する「心に響く一冊」の連載を本紙で掲載した▼オーナーの一人が紹介した本を読もうと、本屋で探す。何気なく探しながら時間をつぶすのもまた楽しい。手にしたのは辻村深月さんの小説「この夏の星を見る」の文庫本。読み始めたばかりだが、やっと涼しくなってきた夜に「天体観測の秋」もいいかもしれないと感じる▼炭鉱作業員の過酷な体験を記した本や、現代小説が描く青春のきらめき、そして「ひとはこ図書館」のような取り組みが示すように、本は多様な世界への扉を開く。秋の夜長、心に響く一冊との出合いを求め、読書の時間を大切にしたい。

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