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  • 2023/09/28 (木)
  •  「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」。秋の彼岸に訪ねた相良三十三観音めぐり5番札所「鵜口観音」。翡翠色の球磨川を望む高台に吹く風に秋の気配を感じた。作者は三十六歌仙の一人、藤原敏行。出典は平安時代初期の勅撰和歌集「古今和歌集」▼鵜口観音は三十三観音の札所で最も西にある球磨村唯一の札所。高台のため、球磨川沿いながら令和2年7月豪雨でも氾濫被害は免れたが、集落は浸水や橋の流失による孤立、迂回など甚大な影響を受けた。新型コロナウイルス禍もあり4年ぶりの開帳だった▼災害前は期間中に旧・人吉街道を歩くウオーキングイベントがあり、コース上の鵜口観音の接待が楽しみという参加者もいた。にぎわいを思い出しながら坂を上るとふわりとぎんなんの匂い。匂いはすれど実は見えず、不思議に思っていると接待の住民が笑った。「朝から参道掃除の方が一仕事」▼暑さ残る中に冷たい茶と甘い菓子と笑顔。そして来訪者の安全を気遣うさりげない優しさ。対岸に渡るとかつて人が暮らした跡に人知れず実る柿。危険な暑さも移ろう季節。川風とここ数日の朝晩に歌人が詠んだ景色を思う。

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