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  • 2023/06/03 (土)
  •  先の節句の折、今や社会人の子らの往時を収めたアルバムを眺めつつ、憶良のかの名句をかみしめた。わが心の支えこそ彼らの存在だと再認識、胸が熱くなった▼きのう、厚生労働省が昨年度の出生率を発表した。結果は過去最低の「1.26」。さらに昨年1年間に生まれた子どもの数もまた統計開始以来、初めて80万人を割った。少子化へのおぼろげな不安こそ、本来は期待にあふれるべき未来の喪失にあるのではないか▼「世の中に思ひあれども子を恋ふる 思ひに勝る思ひなきかな(紀貫之)」。本句にある世代間の愛情継承はもとより、社会の継承をも担う存在が子どもとすれば、その存在価値の大きさも推し量れよう。女性のキャリア保護や出産・育児の経済負担の軽減は、未来への国づくりの基礎とも思う▼国は数年後をめどに少子化予算の倍増をうたうが、中国を念頭の国防費はもちろん高齢者の年金や医療費などを含めた社会福祉費の増額も必至だ。果たしてこれらの財源は確保できるのか。“打ち出の小槌”の赤字国債の発行ももはや限界だろう▼現状の責任追及はさておき、子世代に残す巨額な負の遺産の責任はわれわれにある。胸が痛くなった。

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