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2024/09/30
(月)
- 被災をきっかけに本を読むようになった。心の栄養とか学びへの渇望といった格好いい理由ではなく、単に仮設の自分の部屋にテレビがなかったから。恐らく自分史上、今が最も本を読んでいる▼先般、文化庁は昨年度の国語に関する世論調査で、1カ月に1冊も本を読まないと答えた人が6割を超えたと発表した。読書離れ、災害前は自分もそちら側であり、装丁や帯に惹かれて衝動買いした「積読」を見ると今もそちら寄り▼災害では多くの本を失った。学生時代、アルバイト代と仕送りをやりくりして買い集めた本はレポートに必要な部分を引用した後は開くこともなく、書棚に飾って眺めて満足するインテリ風インテリアと化していた▼災害後、テレビのない部屋で電子書籍で最初に読んだのは高校以来の「山月記」。月の描写や一人称の変化が李徴の心情と虎への変貌を映す。高校当時は分からなかった臆病な自尊心と尊大な羞恥心が時を超えて心に刺さる▼災害廃棄物となった本には近代の文豪の小説や随筆、今は絶版となった文法の本や和歌、古典もあった。今こそ読みたい本ばかり。季節は秋。長々し夜に積読をかき分けて、今宵はどの名作にふけろうか。