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  • 2020/10/15 (木)
  •  二十四節気の一つの寒露、そして十五夜を過ぎれば秋の風情がさらに増す。ことしは水害後の慌ただしさも手伝い、モクセイ香付きの静寂ぶりが際立つ感あり▼季節の移行に伴い、朝晩の冷え込みで窓を閉めれば気付きにくいと思うが、夜には秋虫が鳴いている。「チンチロリン」のマツムシに「リーンリーン」はスズムシ。ウマオイムシは「スイーッチョン」で「リリリリ」とはコオロギ。大合唱である▼食欲や読書、運動などと形容される秋だが物悲しさは尽きない。先述の秋虫らの命は鳴き始めてからせいぜい2カ月程度。発音で羽根が擦れ、交尾や産卵などで体力を消耗すれば生涯を終える。後昆のため懸命に生きて尽きる様子もまた儚い▼水害で飲み込まれた夜間の集落では、住民が避難所などに移っており真っ暗。それでも虫の音だけは例年と変わらず、または犠牲者の鎮魂のごとく周囲に響き渡る。被災された方に季節の移ろいを味わう余裕はないかもしれない。しかし、時は確実に進み、現状は必ず好転すると声高に伝えたい▼秋虫といえば江戸期には、虫の声を味わう「虫聴き」という習慣があった。来秋には誰もが一献、楽しみながら味わえたらと願う晩秋。

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