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  • 2019/03/12 (火)
  •  得意先の氏名や数日前のおかずなど、直近の出来事が思い出せずに自己嫌悪。加齢による健忘は当たり前と周囲に慰められるも、後味は悪い▼記憶が残り続けたら、大学受験で失敗せずに済んだはずと口惜しいが、なぜか記憶は失うもの。米国の研究では、人間は1日に6万回思考し、記憶力が高い人ほど意図的に覚えたことを忘れるという▼きのう、発生から8年を迎えた東日本大震災。午後2時46分、少々早まったサイレンに急かされ、ちょうどの時間から1分間の黙とう。頭を垂れ、まぶたを閉じると、亡くなった知人らの笑顔が動く。忌まわしい記憶もまた忘れないらしい▼皮肉なもので、決して忘れてはならないのが震災被害だ。全家屋の約9割が損壊し、町民の1割が亡くなった宮城県女川町。当時、中学1年の甥が被災後に残した句が「夢だけは 壊せなかった 大震災」▼そしてことし、大学3年となる彼の句が「今はまだ あの日の夢の 道なかば」。時を経て体は成長しても、当時の体験と記憶が薄れることはない。かえって、逆境を生き抜いた強みを糧に前に進む▼人間の生きる強さは、体験を過ぎれば記憶が司る。決して風化させてはならない。

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